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オーディオにおける最大の嘘(5)

ここまで、原文の『オーディオにおける最大の嘘(The Biggest Lie in Audio)』について訳してきましたが、これはあくまでオーディオライター同士(職業ライター、それもなかなかに意見が対立しがちな出版誌陣営)でのやり取りです。

個人のユーザーが趣味で楽しむのに理論や測定が必要かは疑問です。
一番大事なことは、楽しむことではないかと思います。


ただ、長年かけて多くのscientistが築き上げてきた叡知を、個人の感性や何かで蔑ろにするというのならば、それは冒涜というものではないでしょうか。

かつてAppleの創始者のスティーブジョブズの伝記の中に、次のような記載がありました。

僕は子どものころ、自分は文系だと思っていたのに、エレクトロニクスが好きになってしまった。その後、『文系と理系の交差点に立てる人にこそ大きな価値がある』と、僕のヒーローのひとり、ポラロイド社のエドウィン・ランドが語った話を読んで、そういう人間になろうと思ったんだ

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オーディオ趣味でいうならば、『感性と理論の交差点』になるのでしょうか。

現状でのオーディオ(特にスピーカーや部屋)の測定理論において、人間の感動を1つの測定基軸で評価できるものはまだありません。多くの測定値から、それぞれの解釈を深く行いバランスをとり、複合的な情報から読み取っていく必要があり、そして一般的に、測定値から実際の音のイメージを得ることはとても難しいことです。

『感性と理論の交差点』に立って、バランスをとるにはどちらにも深い造詣を求められるのでしょう。それはどちらも大変なことですし、例えば”波形再現性”といった視覚的に訴求力の強い項目は人を強く惹きつけます。

しかし、例えば波形再現性をステップ応答でみる場合

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原波形;ステップ応答(stereophil.com)

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Dynaudio  200XD(stereophil.com)


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Vimberg Mino(stereophil.com)

このような波形を比べたときに、前者の200XDのほうがよりよい波形再現性に見られます。Minoは-12dB/octクロスオーバーのため、midユニットが逆相になっているためステップ応答で逆向きのmidの波形を持ちます。では200XDのほうがよりよい音質なのか.... 私にはわかりません、どちらのスピーカーも寡聞にして聴いたことがありません。

つまり、私にはこの問題に関して(波形再現性は視覚情報的にはキャッチーではあるものの)、「感性と理論の交差点」に立つには感性としての経験値が足りず、またスピーカーの波形再現性といった単一基軸での評価は不適当ではないかと推察するものの、このような場合はどちらかの観点からのみの意見は、バランスを欠いた稚拙なものでしかないのです。

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願わくば自分自身も、そしてこの趣味も、感性と理論どちらも深い造詣を有し、高度なバランスのうえで、より楽しい・よりよい趣味となっていければいいと思います。
(終)

by tetsu_mod | 2020-08-02 12:38 | オーディオ