スピーカーの指向性、もしくは軸外周波数応答(1)

0.
この稿は
『Sound Reproduction』Floyd Tooleと、『SPEAKER DIRECTIVITY / OFF AXIS RESPONSE: THEORY AND MEASUREMENT TECHNIQUES』Acoustic Frontiers、自作スピーカーマスターブックなど先行の書籍・webから多くの抜粋をしています。

実際に、オーディオ(もしくはホームシアターサウンドシステム)の音質を決めている最重要因子はスピーカーと部屋の2つです。さらにスピーカーに関してはリスナーが音色を判断する最も基本的かつ最大のポイントは軸上周波数特性であり、そこに議論の余地はないものとして稿を進めます。

1.
本稿はもう一歩踏み込んだスピーカーの重要な特性としての指向性(もしくは軸外周波数応答特性)についてです。あるポイント(多くはdesign axis上の任意の1点)でとった無響室周波数特性(もしくは擬似無響室周波数特性)は上記のように重要ですが、スピーカーは多くの場合は球状に音を放射しており(いくつかに場合は線音源もしくは面音源として違う挙動を示す)、直接音(direct sound)、初期反射音(early-reflected sound、多くの場合は一次反射音)、残響音(reverberant sound)としてリスナーに到達します。


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(図出典:『Sound Reproduction』Floyd Toole)

直接音(direct sound)は(スピーカーのdesign axisなどを無視した平行セッティングなどを除けば)、音響軸±15度(listening window)の平均値として、上述の通り最も基本的かつ最大のポイントです。

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(図出典:『Sound Reproduction』Floyd Toole)

初期反射音(early-reflected sound)がどの程度知覚できるか・できないかは諸説ありますが、一般的に中枢神経を含めた人間の聴覚では、スピーカーから直接放射された音の到達より100分の1秒以内(10ミリ秒:msec)に到達する音を区別することは出来ませんので、一桁msec内の音響特性、すなわちスピーカーのみでの音響特性(無響室特性)に加えてスピーカー近傍の壁・床などの一次反射音および直近の壁・床による反射音による打ち消し(キャンセレーション)はすべて一塊の初期到達音(直接音(direct sound)+初期反射音(early-reflected sound))として知覚されます。どれほどの時間内での到達音を知覚できるかは諸説ありますが、もっとも人間の聴覚が鋭敏な1000Hz付近で概ね5〜10msecの間となっているようです。これらのことから、先行の書籍類では初期反射音(early-reflected sound)を20-30msec以内と定義しているものが多いようです。

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(図出典:『Sound Reproduction』Floyd Toole)

残響音(reverberant sound)には、対抗する平面によるフラッタエコーや定在波と言った、スピーカーから直接放射された音の到達より25分の1秒(40ms)以上遅延して到達する音、長時間の残響はこだまとして聞こえる音も含まれます。

これらの初期反射音(early-reflected sound)や残響音(reverberant sound)は、聴覚上は再生環境の物理的な空間認識などに関与すると言われています。初期反射音(early-reflected sound)は音場感(広がり)などに強い相関性を持ち、残響音(reverberant sound)は包まれ感などに強い相関性を持つことが報告されています。

このような初期反射音(early-reflected sound)や残響音(reverberant sound)の制御は、スピーカーの指向性(もしくは軸外周波数応答)と部屋の相互作用のバランスによってなされますが、高域になるほどに(特に部屋の遷移周波数以上では)スピーカーの指向性が部屋の音響特性よりも支配的になっていくため、(反射点に一般的に吸収体を取り付けるというカットアンドトライのアプローチ以前に)これらを考慮してスピーカーを設計する必要があります。


2.
指向性(軸外周波数応答)とは、スピーカーの周波数応答が軸外の角度で変化する方法を表すのに使用される用語です。 広指向性スピーカーは軸上・軸外での音圧差が維持される傾向のものを、狭指向性スピーカーは、軸上・軸外での音圧差が大幅に異なる傾向のものを、無指向性(全指向性)スピーカーは軸上・軸外での音圧差が(理想的には)ないものを示します。


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(狭指向性スピーカーの軸上・軸外周波数特性のイメージ図)


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(広指向性スピーカーの軸上・軸外周波数特性のイメージ図)


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(無指向性(全指向性)スピーカーの軸上・軸外周波数特性のイメージ図)


完璧な点音源スピーカー(極小の1点から全帯域の音が放射される)では、音源が波長に対して小さいままであるため、放射は無指向性(全方向性)であり、軸外での周波数応答に変化はないはずです(=理想音源、一般論化のために、ここではダイポール特性やクアドラポール特性は除く)。実際には、無限大バッフル上にマウントされた状態でファーフィールドリニングの環境において波長が音源(ここではスピーカーユニット直径)に比べて小さくなり始める(高域になってくる)と、放射は「ビーム」し始め、軸外周波数応答は乱れ(もしくは指向性が狭くなり)ます。これは、振動板のさまざまな部分(たとえば、エッジ側とドーム頂点側)からの音が互いに位相がずれてファーフィールドに到着することで、視聴位置では位相差により音圧が相殺されるためです。

この現象は周波数とスピーカーユニット直径によって規定されてしまうため、例え20kHzまで軸上では伸びているフルレンジユニットであっても、10cmなら10cmなりの、20cmなら20cmなりの高域での「ビーム」(指向特性の低下)からは逃れられないことになります。ツィーターユニットでは現在1inchドーム型が主流になっている背景は、軸上の高域が延ばしやすいだけでなく軸外への放射が(古典的な1.5inchドーム型や2inchコーン型などと比較して)広く取れることも理由であり、今後は3/4inchなども拡充していくかもしれません。
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(図出典:自作スピーカーエンクロージャー設計法 マスターブック)


ちなみにこの現象はバイオリンなどの楽器でもよく知られており、なにもスピーカーに限った現象ではありません。

結論として、多くの場合にスピーカーに求められるのは、広い帯域において(軸上フラットであることを前提として)、”よく制御されたスムーズな”軸外特性を有することであり、結果として(部屋の音響特性との相互作用のうえですが)”よく制御されたスムーズな” 初期反射音(early-reflected sound)や残響音(reverberant sound)を得ることによって聴感上のメリットとして音場感や定位といったより良いステレオイメージを獲得することです。
狭指向性・広指向性・無指向性(全指向性)スピーカーのいずれが望ましいのかは視聴距離・部屋サイズ・部屋吸音率、そしてなによりもリスナーの好みに大きく左右されるものですが、いずれに場合においても”よく制御されたスムーズな”軸外特性が望ましい性能です。(続く?)


by tetsu_mod | 2019-02-04 00:16 | オーディオ | Comments(0)