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クロスオーバー-74 エピローグ(1)

ATC SCM12slをベースにした改造および新規クロスオーバーの作製ですが、一段落したので振り返っての記事を書こうと思います。

今回の作製では、以下の3つを大要素としての目標にしました。
1.ツィーター軸上1mでフラットな周波数特性
2.サービスエリアを広くする
3.ユニットの繋がりをよくする

1.ツィーター軸上1mでフラットな周波数特性
 オーディオ趣味においては「フラットが正しいのか?」「フラットは求めていないから」と言われる方もいらっしゃいますが、多くのサンプルを集めた場合、1mでの周波数特性のフラットさと、人間が好ましいと感じるかどうかははっきり関連があるそうです。「フラットなんてつまらないよ」と言われたこともありますが、私はフラットを売りにしているスピーカーたちも好きなので、今回は±2.5dBの周波数特性を目標にしました。

 いわゆる自作スピーカーや自作アンプが独りよがりな音質に陥りがちな原因として、『部屋を含めた個人の環境でいいものが、別の環境でもいいとは限らない』があると思います。特にスピーカーは直接音を聴感のみで客観的評価をすることが非常に困難だと思います。そこで、疑似無響音室測定を用いることで、一般住宅でも部屋の影響を排除した測定が可能でした。それに伴い、今回の作製でマイクの買い替え(実はこれが一番コストが高かった)ましたが、おかげで結果としては満足のいく測定と周波数特性ができました。だいたい、80-15kHzの範囲で±2.5dBを達成しています。

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 さらに、今回の周波数特性においてはエンクロージャーのバッフルステップも補正しています。これはバッフル縁での回析・反射によるもので、今回はウーファーでは100Hz程度から上昇し、最大で+8dBの増幅が見られます。そして、ATC社のクロスオーバーや特性表記ははバッフルステップを考慮していません。壁に埋め込んだり、50cm程度の近接距離で聴くのであればバッフルステップ上昇は考慮しなくてもいいのかもしれませんが、拙宅での使い方、すわなちフリースタンディングで1.2〜1.8m距離での試聴においては、これを補正することにしました。

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2.サービスエリアを広くする
 3にも関連しますが、これはクロスオーバー帯域および高域のサービスエリアの補償です。クロスオーバーにおいては、もっとも上下方向にサービスエリアがひろく、周波数フラットネスが見込めるLinkwitz-Riley slope 4次のクロスオーバーを採用しました。また、4次という高次のスロープを採用しましたが、電気的には2次の回路で、音響的に4次になるように設計しています。
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左右方向のサービスエリアでは、純正の2.8kHz or 2.5kHzというクロス周波数から、2kHzクロスに下げています。これはウーファーの指向性の問題で、クロスが低いほどウーファー側からみた指向性は改善されますが、ツィーター側の耐入力としては悪化します。
 高域に関してはツィーターウェーブガイドを導入しました。簡単に言えばショートホーンですが、これにより高域の指向性の改善、歪み率の改善、耐入力の改善、ツィーター・ウーファー間の位相差の改善などの複数の要素に対応しています。
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 これらの結果、水平方向±30°で±3.5dB(80-15kHz)という指向性特性にできました。

 拙宅は床生活なので、すぐにゴロゴロしてしまうのですが、どこで聴いても定位感やバランスがあまり変わらない、という特性は非常にありがたいです。

 ただし、バッフルステップ補正やウェーブガイドの効果が十分に発揮するためにも、70cm以上は離れる必要があります。逆に超ニアフィールドには向かないかも知れませんね。

3.ユニットの繋がりをよくする
 ユニット間でバラバラに聴こえたり、繋がりよく聴こえない時は、ユニットのf0周囲での暴れや、break-upや固有振動をコントロールできていない場合や、クロス周辺においてのユニット間の位相差(絶対位相ではない)がマッチしていない場合が考えられます。
 今回はLinkwitz-Riley 4thクロスにおいて、逆相接続の場合ユニット間位相差が180°になり、合成音圧が打ち消し合うreverse nullを指標にしました。
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クロス周波数である2kHzでのユニット位相差は0.11°になり、かつ、ウーファーはコイル成分上昇の補正や、break-up補正のノッチフィルターを導入し、非磁性流体モデルのツィーター側にはf0でのインピーダンス補正を導入しています。
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とは言っても、ウーファーとツィーターの間はホーンによる合成音圧の領域もありますから、繋がるようには思えないかと思います。うまく繋がっているかの評価は、先日のオフ会で
>非常に複雑なネットワークみたいだったので、どんな音かなと思っていましたが、極めて真っ当な音でした。ウーファーとトゥイターは必ずしも同じ質感だとは思えなかったのですが、違和感なくうまく繋がっていました。
とのコメントをもらえました。市販・自作を問わず、リボン、紙、メタルなどの様々な素材のユニットやバスレフ、密閉、ホーンなどの組み合わせでも、しっかり繋がってるスピーカーも数多くあります。理想的に全く同じ質感になるためには、ウーファーとツィーターが全く同じユニットである必要がありますし、それってフルレンジだし、それならフルレンジ一発で聴けばいいし、フルレンジも高域に向かって分割共振の問題がありますしetc...
 マルチウェイにおいてユニットの繋がりは、やはりユニットの癖の調整と、ユニット位相差のコントロールが肝要だと思いますし、そこがスピーカー制作者の腕の見せ所なのだと思いました。

また、コメントで非常に複雑なネットワークとの指摘もありましたが、市販の2wayスピーカーで用いられているクロスオーバー素子数をざっと調べてみると、

B&W 805S 3個
ATC SCM12sl、20sl 9個
Audiomachina Ultimate monitor 10個
LS3/5a 13個
Dynaudio FOCUS110 14個

今回の僕の改造では素子数が14個です
海外DIY有名サイトの作例では、
Audioexcite Excellent two 8個
Humble homemade Hi-Fi Orfeo 16個
Zaph audio ZD5 18個
となっています。非常にメーカーの個性が出て面白いですが、我々コンシューマーはクロスオーバーに合わせたユニット開発が出来ないため、必然的に補正用の素子が増える傾向にある気がします。


そして、今回の一連の設計・作製において、私は特別なことをしたわけではなく、本や論文、インターネットに載っているスタンダードの範囲内で設計・作製しています。実は世界的にみると、コンデンサ一発やコイル一発でクロスさせて聴感で追い込む日本式(長岡式?)設計のほうが特別なようです。こんなところにもガラパゴス化が?

さて、今回はうまく行った箇所ですが、次回は反省点です...
by tetsu_mod | 2015-01-19 19:55 | オーディオ