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Measuring Loudspeakers, Part Two
John Atkinson | Nov 7, 1998
https://www.stereophile.com/features/100/index.html

紹介するのはStereophile誌の前編集長、John Atkinson氏の1998年のスピーカーの特性評価における総説です。すでに21年前の総説ですが、非常にまとまっており、またこの内容に対する理解は非常に得難いものなので、僭越ながら注釈を追加しつつ和訳したいと思います。

この一連の記事の最初の部分では、オーディオ雑誌がスピーカーのレビューに測定値を含めるべきだと思う理由を調べました。 また、電気インピーダンスと電圧感度の概念と、それらがオーディオマニアにとって何を意味するかについても詳しく説明しました。 次に、スピーカーの音響動作の基本の話をしましょう。

・インパルスとステップ応答
デジタルオシロスコープの出現以前は、スピーカーの時間応答を調べることは困難でした。 しかし今(1990年代)では、オーディオ機材の出力の時間応答(過渡特性)を把握することはかなり簡単になりました。これにより、オーディオエンジニア、さらにオーディオレビュアーは強力なツールを手に入れられることになります。

時間応答(過渡特性)の最も基本的な測定波形はインパルス応答(瞬間的な電圧矩形波パルスに対するオーディオ機材の出力)で、オーディオ機材の線形性の完璧な特性評価になります。ただし、実際にはスピーカーの測定に矩形波パルスを使用するのは難しく、矩形波パルスのダイナミックレンジが非常に広いため、S/N比が悪化するのです。そのため、Stereophile.comでは最大長シーケンステスト信号を用いて、DRA LabsのMLSSA測定システムで解析しています。

MLSSAでは疑似ランダムシーケンス電圧矩形波パルスを用います。 入力信号と、マイクで拾った出力信号での相関関数により、PCはシステムのインパルス応答を計算できます。 これはあくまで計算されたインパルス応答であり 、スピーカーの電気的インパルスに対する出力そのものではないことを覚えておくことが重要です。 1991年にVerity's Graham BankとCelestionと話しているときにも、その2つは同じではないと指摘されました。またスピーカーは、低ダイナミックレンジのMLSパルスを使用した場合と、高ダイナミックレンジの単一インパルスで駆動した場合の動作が異なる場合があります。これは、線形システムの測定と仮定していても実際のスピーカーはそうではないからです。スピーカーが非線形システムであれば、見かけ上のエコー成分もしくは反射成分が、計算されたインパルス応答に生じることになります。


図9は完全なインパルス応答を示しています。 電圧は瞬時に立ち上がり、設定したDC電圧を短時間維持したのち、瞬時に低下してゼロに戻ります。 この矩形波パルスの幅は、テスト信号に含まれる周波数レンジ幅に反比例します。 インパルスがこのグラフの時間軸上で無限に狭い理想的な波形の場合、「直流から光速の領域まで」の無限の周波数帯域が必要になります。


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図9 完全なインパルス応答。


「あるなにかの1つの領域より厳密に規定するほど、他の領域はより不確定要素となる」というハイゼンベルグの不確実性の原理と似たことがここで起こります。時間領域の矩形パルスを無限に狭くするほど、周波数領域でのその帯域のスペクトルは無限に近づきます。 逆に、信号の周波数領域のスペクトルを単一に限定する場合、 つまり、単一周波数のみが存在する場合、信号の時間領域表現はすべての時間の始まりから終わりまで無限に続きます。
一般的なスピーカーのインパルス応答を図10に示します。これは30kHzの帯域幅を持つシステムを、MLSSAシステムのアンチエイリアスフィルターとトムソンのローパス窓関数で補正したものです。鋭い上下方向への波形はツイーターの出力であり、その後に低い周波数の波形が現れ、続いてスピーカーバッフルとエンクロージャーから反射によるリップルが現れたのち、最後に(7.5msの箇所です)部屋の壁からの反射波がみられます。インパルス応答を解釈するのは、特にスピーカーではツイーターの出力が見た目を支配しているため、とても難しいものです。この波形からウーファーおよびミッドレンジユニットの動作についての情報はあまり得られません。また、インパルス応答とそれに由来する情報は、測定時の条件(特定のマイク位置でのスピーカーの出力)での情報であることにも注意が必要です。


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図10 一般的なスピーカーのインパルス応答

ステップ応答はスピーカーの診断ツールとしてより有用だと思われます。単一の矩形パルスではなく、瞬時にゼロからある電圧に立ち上がり、その電圧出力を保つ信号を入力します(図11)。 この波形は現実的には困難なため、MLSSAシステムでは前述のインパルス応答からステップ応答を計算します。 ステップ応答の波形では、インパルス応答の波形よりもスピーカーのすべてのユニットの出力の見た目がほぼ等しくなるため、低域ユニットについてより多くの情報を得ることができます。また、スピーカーの時間的整合性(タイムアライメント)についても良い情報を得ることができます。


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図11完全なステップ応答

立ち上がり波形はツィーターの高域再生限界によって規定されるため、実際にはスピーカーのステップ応答は瞬時には立ち上がりません。それでも、高域再生限界が20kHzを超えるようなスピーカーでは、その立ち上がり波形の差はわずかなものです。 さらに重要なことは、スピーカーは直流電圧(0Hz、DC電圧)に相当する音圧を再生できない(すべてのスピーカーは何らかのハイパスフィルターとしてモデル化できます(もっと言えばバンドパスフィルターを有する電圧音圧変換器))、ステップ応答波形は指数関数的に減衰していきます。このステップ応答波形はいったんゼロをこえてマイナスになりますが、最終的にはゼロに戻り、時間軸を挟む正負双方の領域の面積が等しくなり、最終的にDC成分が存在しないようになります。したがって、理想的なステップ応答は、わずかに凹んだ直角三角形に似ています。

図12は、3つのドライブユニットの出力がマイク位置で同相になるようなタイムアライメントの優れた3ウェイスピーカーによる、良好なステップ応答波形です。このような優れたステップ応答を生成するスピーカーはそれほど多くありません。Stereophile.comで測定したスピーカーのうち、Quad、Thiel、Dunlavy、Spica、Vandersteenのモデルの約10個だけが、この良いステップ応答を持っています。(近年ではKEFやDynaudioの2wayモデルも優れた波形でしたが、いずれもパワードモデルのみでした。パッシブモデルではこのような波形は得られなかったため、アクティブクロスオーバーでの制御によるものでしょうか。)


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図12スピーカーのステップ応答が良い例

図13はより一般的な3ウェイスピーカーのステップ応答です。この例では、実際には3つのステップ応答波形の合計が現れています。ツィーターからの鋭い上方向の波形があり、次にミッドレンジユニットの下方向の波形があります(これから分かるように、ツイーターとミッドレンジは逆相接続です)。 最後に、ウーファーからの幅広い上方向の波形が見られます。この分析を確認するために、図14、15、および16では、それぞれ個別に測定した3つのユニットのステップ応答を示します。ツィーターとウーファーのステップ応答(図14および16)では最初は上方向に立ち上がります、つまり両方のユニットは正相で接続されています。 しかし、ミッドレンジユニットのステップ応答(図15)は、最初は下方向の波形を示し、このミッドユニットが逆相で接続されていることを示します。


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図13 図10の時間情報から計算されたステップ応答。

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図14 図13からのトゥイーターステップ応答

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図15 図13のミッドレンジユニットのステップ応答

ウーファーのステップ応答(図16)は、立ち上がり・立ち下がりともにとても遅いことが特徴です。多くのオーディオマニアは「速いウーファー」ということを話題にしがちですが、図16は、そのようなことはあり得ないことを示しています。ウーファーの立ち上がりは、クロスオーバーのローパスフィルターによって規定されます。ローパスフィルターではステップ応答の素早い立ち上がりに必要な高域は切り捨てられるため、「速いウーファー」は矛盾した表現なのです。 ただし、「速いウーファー」が話題になるとき、本当に意図しているのは、スピーカーの低域チューニングにおけるQ値や、その品質に関わる話が多いことがほとんどです。ウーファーは信号が途切れた後に素早く立ち下がり停止するのか?それとも尾を引く低周波のリンギング(ブーミング)が残り続けるのか、ということです。


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図16 図13のウーファーステップ応答

上述の図13〜16のスピーカーの設計者は、クロスオーバー領域に大きな(180度以上の)位相回転を起こす何らかの高次クロスオーバーフィルターを使ったようです。これに、ユニット間の時間遅延による位相回転(acoustic offset)と、ミッドレンジの逆相接続による180度の位相回転が加わります。その結果、合成された軸上周波数応答はフラットな特性が得られることが期待されますが、トレードオフとしてシステムのタイムアライメントは犠牲になります。

多くのスピーカーでは、メーカーのマーケティング部門によってタイムアライメントが揃っていると売り文句にされています。傾斜したフロントバッフルを備えたスピーカーもいくつかあり、それらはタイムアライメントの整合性を暗に主張しています。しかしそのステップ応答をみれば、そのスピーカーが(ある測定軸上で)タイムアライメントが揃っているかどうかはすぐに分かるのです、そして、ほとんどすべてのスピーカーでは残念な結果です。「高能率」と「タイムアライメント」が、ハイエンドオーディオで最も多い嘘なのです。


※追記
近年ではKEF LSXやDynaudio 200XDはすぐれたステップ応答を示しました。
それぞれ構成が近似モデルのKEF LS50およびContour20のステップ応答と以下に示します。

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図17 KEF LSX

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図18 KEF LS50

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図19 Dynaudio 200XD

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図20 Dynaudio Contour20

いずれも2wayパワードモデルで、ディレイを含めた設計が優秀な証左と言える応答波形です。

よく、一部のオーディオマニアにおいてタイムドメイン(時間軸領域)の応答性を優先し、フルレンジ(1wayユニット)再生に拘る趣きもあるようです。しかしながら、前述のようにスピーカーがバンドパスフィルターである以上はステップ応答波形の連続性を得る一策として1wayを選択した場合でも、立ち上がり(高域再生限界)や低域再現能力などに制限が反映されるため、一概なメリットとは言い難いのではないかと思われます。


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図21 Fujitsu Ten Eclipse TD712z (周波数特性+ステップ応答)

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図22 Dynaudio 200XD (周波数特性+ステップ応答)

以前には、周波数特性重視型かタイムドメイン重視型(過渡特性重視型)か、のような極端な議論もあったようですが、後述するように周波数特性はスピーカーの性能の最も基本的なものの1つであり、本来の理想的なスピーカーはこの2つを両立すべきです。図21のTD712z はタイムドメインをうたったフルレンジシステム(1wayユニット)ですが、周波数特性には凹凸が多く、特に中高域からの分割振動と円形バッフルによるリップルが肝心のステップ応答を乱しています(4.5msのポイントです)。また、高域・低域の特性についても非常に制限されたものとなっており、バスレフポートからは600Hzの中域が-20dBで漏れており、図22の200XD(2wayパワード)などの最新鋭機と比較すると周波数特性・ステップ応答特性ともに厳しいものとなっています。

また、過渡特性(時間応答)においては、特に低域ではエンクロージャーの共振や、低域のQ値の設定(制動)の問題もありますが、近年では複合素材エンクロージャーや金属エンクロージャー、Linkwitz TransformやフランスDevialet社のSAM技術などによる制御の取り組みが見られます。
今後はクロスオーバー制御の技術の進歩や拡大、エンクロージャー設計技術やDSP技術の革新に伴い、周波数特性と過渡特性は同時に満たされていく条件になるものと期待されます。


# by tetsu_mod | 2019-08-25 03:23 | オーディオ | Comments(0)

Measuring Loudspeakers, Part One
John Atkinson | Nov 7, 1998
https://www.stereophile.com/features/99/index.html

紹介するのはStereophile誌の前編集長、John Atkinson氏の1998年のスピーカーの特性評価における総説です。すでに21年前の総説ですが、非常にまとまっており、またこの内容に対する理解は非常に得難いものなので、僭越ながら注釈を追加しつつ和訳したいと思います。

・電気インピーダンス特性
スピーカーを駆動するアンプは定電圧増幅として動作するため、スピーカーのインピーダンスはそのアンプからどれだけの電流が流れるかを示します。 インピーダンスは変動的であり(つまり電気的位相角を持っている)、周波数によって変化します。

インピーダンスの測定法は2つあります。 まず、スピーカーと分圧抵抗にかかる電圧の電気的インパルス応答を測定し、高速離散フーリエ変換(FFT)を実行する方法です。2つ目は、サイン波スイープまたは不連続な周波数のサイン波を用いて、電流を一定とした場合の電圧振幅と位相を測定する方法です。 実際には、定電流源は定電圧アンプと直列につないだ高抵抗とに置き換えられるため、高いインピーダンス値の測定では誤差が大きくなります。

さて、1つ目の測定法では広帯域ノイズ信号(LimpではPeriodic Pink Noise)が、2つ目の測定法では単一周波数のサイン波信号(LimpではSwept sine)がそれぞれスピーカーに入力されます。両方の測定では動作が異なる、という技術者もいますが、Stereophile.comでは測定してみたところ、結果にわずかな差しかないことが分かりました(厳密には同じ設定ではSwept sineのほうが音圧は高くなるため、低域での挙動がより正確になる傾向があるかと思いますが)。しかし、現実的な理由からStereophile.comでは2つ目の測定法を使用しています。Audio Precision System Oneを使用して、シリーズの抵抗には600Ω(実質的にこれがユニットの入力インピーダンスになります)を用いて、6 Vで10 Hzから50 kHzまでの240周波数ステップでスピーカーを測定します。本当のスピーカーのインピーダンスは複数の要素からなり、すなわち振幅、位相、および周波数の3次元でプロットされるべきですが、ここでは一般的な周波数に対する振幅および位相をプロットします(図3)、これは3次元プロットの振幅・位相を別に投射したものになります。Stereophile.comでは3次元プロットよりも分かりやすいと考えて採用しています。対数スケールを好む技術者も一部にいますが、一般的にわかりやすい線形スケールを用いています。基準として0.5%制度の10Ωの純抵抗も測定し、再現性と精度を確保しています。

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図3. 一般的な2wayスピーカーのインピーダンス(実線:振幅、点線:位相)

1991年にFred Davis とDon Keeleと話しているときに、Stereophile.comで1990年後半から1991年初頭に公開されたインピーダンスの位相特性が、正負の位相角が逆になっていることを指摘されました。(負の位相角:電圧に先行する電流は、容量性負荷(キャパシタンス)によるものです。正の位相角:電圧に遅れる電流は、誘導性負荷(インダクタンス)によるものです。)これはソフトウェアのバグによるものだったようで、その後のStereophile.comのデータは修正され、負の位相角が周波数軸の下にプロットされています。 しかし、書籍や他の雑誌に掲載されているインピーダンスカーブ特性には様々な意見があるようで、キャパシタンスとインダクタンスを混同したり周波数軸の上に負の位相角をプロットしたりする評論家もいます。

一般的なスピーカーインピーダンス値はどれくらいでしょう? 図4は、1991年1月から1997年6月までに測定された330台のスピーカーの平均インピーダンス値をまとめたものです(6台のスピーカーはアンプ内蔵型か、アクティブクロスオーバーモデルか、もしくは別の理由で測定されていません)。4Ω以下もしくは15Ω以上の平均インピーダンスのスピーカーはほとんどなく、全体での平均は8.6Ω、中央値で9.25Ωでした。 Martin Colloms によると、ドイツのDIN規格ではスピーカーのインピーダンス値が公称値から±20%を超えて変動しないことが規定されています。 しかし、Stereophile.comのデータではスピーカーのインピーダンス変動はこれよりも大きくなる傾向があり、平均8.6Ωのインピーダンスに対してその変動は標準偏差で3.7Ω(43%)でした。駆動するアンプの出力インピーダンスが十分に低い限り、このインピーダンス変動が音に影響を与えることはありません。しかし、真空管アンプを使用する場合ではその限りではありません。恐らく真空管アンプでは数Ωの出力インピーダンスをもつため、Stereophile.comで指摘したように聴感上の周波数バランス(f特)に大幅な影響を与える可能性があります。


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図3. 330台のスピーカー、平均インピーダンス値


図5は、同じ330台のスピーカーの最小インピーダンス値をまとめたものです。大部分の最小インピーダンス値は、2.76Ωから4.26Ωの間であり、前述の平均値よりもばらつきがはるかに少ないことがわかります。 最小インピーダンス値の平均値と中央値は4.3Ωでした。 30kHz以上でショートするような”エキゾチックな“のクロスオーバー設計や、100kHz以上で0.5Ω以下に低下した2つのスピーカーの初期サンプルを無視すると、実際に2Ω以下の最小インピーダンス値だったスピーカーは6台だけでした。ちなみに最高の最小インピーダンス値(171Hzで8.33Ω、位相角-3.1度)を有したスピーカーは、ビンテージな1977年製のBBC LS3 / 5Aでした。 興味深いことに最小インピーダンス値の周波数には国ごとの違いがいあり、イギリス製のムービングコイルスピーカーは、高音域(10kHz付近)で最小インピーダンスを持つ傾向がありましたが、アメリカ製のものは低中音域にあります。



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図5 330台のスピーカー、最小インピーダンス値

インピーダンス測定は重要な診断ツールです。 電気インピーダンスを見ただけで、スピーカーがどのような動作をしているのかについて多くの情報が得られます。スピーカーを見なくとも、インピーダンス特性からユニット数がほぼ明らかになりますし、同様に密閉エンクロージャー(低域に山が1つ)なのか、バスレフもしくはトランスミッションライン(低域に山が2つ)なのか、またはホーンロードがかかっているのか(いくつかの一定間隔の複数の山たち)なのかも明らかになります。 おおよその低域の再生限界もQ値と同様に低域インピーダンス特性から分かります。典型的なバスレフチューニング周波数は低域インピーダンスの「2つ山」の中間の谷の周波数になり、一般にこの周波数が-6dB(スピーカーの音量が約半分)になります。
また、スピーカーシステムに共振が存在するかどうか、およびその種類を調べることもできます。 たとえば、十分な周波数分解能で測定すれば、さまざまな種類のエンクロージャーの共振により、インピーダンスカーブに小さなノイズが現れてきます。例えば、図3の200Hzと450Hzに存在するノイズは、エンクロージャーの共振によるものです。一方、27kHzでのノイズは、ツイーターの「オイル缶(油指し)」共振、すなわちツィーターのドーム中央部分と周辺部分が逆位相で振動するモードによるものです(oil-can resonanceの意味が十分に分かりませんでしたが、記述からおそらく分割振動周波数だと推測しています)。

図6は別のスピーカーのインピーダンス振幅・位相特性です。設計者は、キャビネット内のすべての吸音材を入れませんでした。確かに、これによりおそらくスピーカーはより「元気良く」聞こえますが、引き換えにエンクロージャー内部の定常波と、エンクロージャーのパネル共鳴の両方が中音域全体に影響を与えています。予想通り、それらはスピーカーのインピーダンス特性にはっきりとノイズとして現れています。 スピーカーを試聴する前から、図6のインピーダンス特性のノイズから中域に深刻な色付けがあるだろうと予測できました。 逆にレビュアーのTom Nortonは、このインピーダンス特性を見る前に、すでに聴感上でこれらの問題に気付いていました。



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図6. エンクロージャーが吸音されていないスピーカー、インピーダンス値(実線)と位相(破線)の測定値。

インピーダンス特性から分かる最も重要なものは、スピーカーが要求するアンプの駆動力が予測できることでしょう。(一般的なボイスコイル型スピーカーでは)スピーカーのインピーダンスは変動するため、インピーンダンスの位相特性に応じて電流は信号電圧よりも位相角だけ先んじたり遅れたりします。 最悪の場合、位相角が90度でアンプは信号電圧がゼロに近づくにも関わらず最大電流を流す必要があります。したがって、スピーカーの公称インピーダンス値が8Ωであると指定するだけでは誤解のもとになる可能性があります(8Ωの純抵抗動作とは大幅に異なるため、アンプの負荷もまた負荷試験とは大幅に異なる可能性があります)。 インピーダンスの位相角は周波数ごとに異なるため、アンプからみてもっと低いインピーダンス負荷となる場合があります。しかし、1987年のAESで故Peter Baxandallが指摘したように、インピーダンスの最低値周波数と最大位相角周波数が一致することはありません 。 どちらも3次元現象の2次元投影であるため、数学的に関連しているためです(インピーダンス値の変曲と位相角は関連するためです)。

過去20年間(1980-90年代)で、オーディオマニアのサークルではこのテーマについて多くの推測がありました。 Dolby 社のEric Benjaminは1992年にこの問題を詳細に調査し(氏の論文の参考文献は包括的です)、特にスピーカーのインピーダンス値と位相角に応じたB級アンプの理論的な電力消費(損失)に注目しました。 スピーカーに流れる最大電流が最小インピーダンス値によって予測される値をほとんど超えないと結論づける一方で、アンプ出力段で計算された電力消費(損失)は、最低インピーダンス値とアンプ出力電圧に応じた予測値の120%から270%となると報告されています。

したがって、スピーカーに対してアンプの出力段は若干、もしくはかなり余裕を持たせる必要がありそうです。にも関わらず、ほとんどのアンプで問題が顕在化しないのは、E. Brad Meyerが指摘しているように、普通のスピーカーで、普通の部屋で、普通の音量では、数ワット以上のパワーは必要ないからなのです。

それでも、スピーカーのインピーダンス特性は音質に大きな影響を与える可能性があります。たとえば、図7と図8は、最もインピーダンスが低い2つのスピーカーですが、それぞれの最低インピーダンス値は同じでも、インピーダンス変動と特に位相角に関しては大幅に異なります。 図7は、2kHz以下では5Ω以上を保っていますが、12kHzで1Ωまで急落し、3.3kHzで2.4Ωかつ-70度の位相角という”アンプクラッシュ”な特性となっています。対照的に、図8ではほぼすべての帯域にわたって3Ω以下のインピーダンス値ですが、位相角変動は良好です。これらのインピーダンス特性グラフを見るだけどちらがアンプからみて駆動しにくいスピーカーか予測することは容易ではありません。将来のStereophile.comでは、測定したスピーカーデータからBenjamin'sの「ピークドライブ難易度」を計算し、評価に使える対応表を作る予定です。


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図7 アンプ負荷が大きい例1(実線:振幅、点線:位相)


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図8 アンプ負荷が大きい例2(実線:振幅、点線:位相)

この記事の第2部では、スピーカーの時間領域の動作とあらゆる種類の非線形歪みの概念を検証します。 パート3では、さまざまなタイプの周波数応答をすべて調べます。


# by tetsu_mod | 2019-08-17 12:06 | オーディオ | Comments(0)

Measuring Loudspeakers, Part One
John Atkinson | Nov 7, 1998
https://www.stereophile.com/features/99/index.html

紹介するのはStereophile誌の前編集長、John Atkinson氏の1998年のスピーカーの特性評価における総説です。すでに21年前の総説ですが、非常にまとまっており、またこの内容に対する理解は非常に得難いものなので、僭越ながら注釈を追加しつつ和訳したいと思います。

・能率(電圧感度)
スピーカーの能率は、その効率とよく混同されているようですが、能率とはスピーカーがどれだけの電力で駆動された場合にどれだけの音響出力が得られるかで厳密に定義されています。例えば、効率の計算としてはスピーカーにアンプから100W給電した場合、音響出力は何W得られるでしょうか? 答えは「そう多くはない」です。典型的なムービングコイルスピーカーの効率は約1%です。
効率、またはより正確には能率は、通常は1W入力に対してスピーカーから特定の距離(普通は1m)で得られる音圧レベルで表示されます(dB / W / m)。 ただし、入力W数はスピーカーのインピーダンスと周波数に依存し変動するため、実際にはこの表記法は困難が付きまといます。例えば、 2.83Vの電圧の正弦波でも、1kHzで8オームのインピーダンスのスピーカーに給電すると1Wの入力になります (オームの法則により、電力= V x V / R =(2.83 x 2.83)/ 8 = 1W)。しかし、ほとんどの場合スピーカーのインピーダンスは200Hzではるかに低く(ときには2オームなど)、この場合では200Hzで同じく2.83Vをスピーカーに入力すると、アンプは4倍の電力を消費します。このスピーカーの能率は、1kHzと200Hz で4倍違うということになります。

そもそもなぜ能率が重要なのでしょう?戦前のオーディオエンジニアは(電気通信エンジニアは今でも)電力の変換効率に精力を注いできました。しかし、半導体デバイスの出現以降、オーディオアンプは多かれ少なかれ定電圧アンプとして(つまり負荷や電流に関係なく一定の出力電圧を保つように)動作するようになりました。そこで、狭義の能率(W/dB/m)ではなく、アンプからの所定の電圧レベルでスピーカーがどれだけの音圧を出力するか(電圧感度)が現代では重要になっています。これは一般的に2.83V(8Ω負荷に対して1Wの入力)の入力電圧で1mの距離でスピーカーから出力される音圧レベル(dB/2.83V/m)と定義されます。

能率でなく電圧感度を使用する利点は、定電圧アンプであれば常に要求される電流を提供すると想定できるため、インピーダンス変動に関係なくスピーカーへの入力は2.83Vで一定に保たれることです。スピーカーのインピーダンスが変動せず8オームの純抵抗であれば、能率と電圧感度は等価となります。しかし、インピーダンスが8オームと大幅に異なる場合、前述の場合のように、能率と電圧感度は非常に違ってきます。
この能率と電圧感度の違いの典型例は静電スピーカーです。 低音のインピーダンスは100Ωを超えており、その電圧感度は非常に低く約79dB / 2.83V / mでした。 しかし、そのインピーダンスを考慮に入れると、典型的な8Ωのダイナミックスピーカーと比べて流れる電流は非常に少ないため、電力を音響出力に変換する能率はとても高いということになります。

アンプとスピーカーのマッチングにおいて、スピーカーの電圧感度は重要な項目です。 20Wアンプを使用している場合は電圧感度が高いスピーカーを使用するべきで、そうでなければ大音量再生はできません。逆に、電圧感度が高いスピーカー(たとえば100dB / 2.83V / m)を使用している場合、おそらく5Wのアンプで十分であって、600Wのアンプに10,000ドルを費やすことはお金の無駄です(実際にはアンプの性能は出力W数だけで定義されるわけではないので、後者はやや暴論のきらいがあるかと思います)。

ただ、電圧感度が重要な特性だと認識されていても、それをどう評価すべきかについては大きな意見の相違があるようです。問題は、ほとんどのスピーカーがフラットな周波数応答特性(f特)を持っていないことです。そのため、スピーカー会社のマーケティング部門にとって、フラットではない周波数応答特性のピークでの電圧感度でもって、そのスピーカーが高能率だと宣伝でするのは非常に魅力的です。また、測定に広帯域ノイズをテスト信号として使用した場合、ラウドスピーカーの再生帯域幅も測定感度に影響します。 2台のスピーカーが音楽では同じ音量で聞こえても、広帯域ノイズでは極端な超高域・超低域まで伸びているスピーカーはより高い電圧感度を持つと測定されます。 したがって、聴感上の音量(ラウドネス)と相関性をもつ電圧感度の測定法が必要になります。

1990年にフィリップス社のロナルドアーツは、聴感上の音量(ラウドネス)とスピーカーの周波数応答特性(f特性)の関係性についての研究を行いました。この報告では一般的な騒音測定に用いられる人の聴感特性を考慮した周波数重み付け特性Aでは聴感上の音量(ラウドネス)と十分な相関性は得られず、代わりに臨界帯域分析法(クリティカルバンド分析法、ISO932B)に基づいてPhonで聴感上の音量(ラウドネス)を計算すると結論付けていました(すみません、ISO932Bについては十分な情報が得られませんでした)。 クリティカルバンド分析器は簡単に手に入らないため、Stereophile.comではスピーカーに標準レベルで20kHz帯域幅のノイズを入力し、出力波形をDRA Labs MLSSAシステムのストレージオシロスコープモードで解析しています。帯域幅の違いの影響を軽減するため、1/10オクターブでスムージングをかけて周波数重み付け特性 B補正を行なっています。 Stereophile.comでは、この方法で評価された周波数重み付け特性 B補正での電圧感度に基づいて聴感上の音量(ラウドネス)が等しくなるように調整された30ペアの異なるスピーカーのシングルブラインドテストを4セット行いました。その結果、この方法で評価された周波数重み付け特性 B補正での電圧感度は、聴感上の音量(ラウドネス)はと十分な相関性を有していました。ただし、軸上で著しく周波数応答特性が乱れる(f特が凹凸な)スピーカーでは、それでもやや信頼性が低いことがわかりました。 ISO932Bを使用した測定・解析は、将来の課題となっています。

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図1. 10 Hz – 20 kHzでの周波数重み付け特性A-, B-, C- およびD-補正曲線(wikipedia)


一般的なスピーカーの電圧感度はどれぐらいでしょうか? 図2は1991年1月から1997年6月までの間にStereophil.comでレビューされた261台のスピーカーの計算された周波数重み付け特性 B補正での電圧感度をまとめたものです。測定された平均電圧感度は88dB(B)/2.83V/mで、中央値は85dB(B)です。 測定されたモデルのほぼ40%で、周波数重み付け特性 B補正での電圧感度が84.5dBから87.4dBの間に入ります。分布はおおよそ正規分布に思われますが、80dB(B)を下回るか、90dB(B)を上回るモデルもわずかに存在します。低電圧感度モデルはさまざまな種類の平面型スピーカーである傾向がありますが、95dB(B)以上の感度のスピーカーはすべてプロ用モニタースピーカーです(もしくは興味本位で測定された楽器用のスピーカー、おそらくはギター用スピーカー)。


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図2. 周波数重み付け特性 B補正した261台のスピーカーの電圧感度分布

電圧感度の分布が比較的狭い範囲(多くのスピーカーで電圧感度がほぼ一定範囲内=80dB前半〜90dB前半(B)/2.83V/m)なのは驚くべきことではありません。 高感度を達成するには、常に無謀で高価格な設計が必要になります。すべてのスピーカーの設計者は予算の制約を受けており、マグネットサイズ、ボイスコイルの設計、振動板面積などで結局は同様の妥協案に落ち着く傾向があります。

概ね、ここで測定した電圧感度はスピーカーのメーカーが公開値と比べてわずかに低めです。 ほとんどの場合、これは公開値が楽観的だからだと思われます。しかし、 Stereophile.comのオフィスは、ニューメキシコ州サンタフェの標高2150mにあることに注意する必要があります。 サンタフェと海抜0m地点で同じスピーカーのサンプルを測定した実験では、高度によるスピーカーの性能への影響は電圧感度の低下のみであることが示されました。 したがって、Stereophile.comで測定された電圧感度を絶対値として扱うのではなく、各スピーカーの電圧感度を、サンタフェと海抜0mの両方で測定したリファレンススピーカー(BBC LS3 / 5A)の電圧感度と比較する必要があります。つまり、測定システムエラーが測定値に反映されている可能性がありますが、とはいえその誤差が±1dBを超えないものと思われます。


# by tetsu_mod | 2019-08-12 00:15 | オーディオ | Comments(0)

Measuring Loudspeakers, Part One
John Atkinson | Nov 7, 1998
https://www.stereophile.com/features/99/index.html

紹介するのはStereophile誌の前編集長、John Atkinson氏の1998年のスピーカーの特性評価における総説です。すでに21年前の総説ですが、非常にまとまっており、またこの内容に対する理解は非常に得難いものなので、僭越ながら注釈を追加しつつ和訳したいと思います。

前述のように、主観的なスピーカーの性能というのは多次元的な現象です。ただし、有意義かつ実用的な“客観的”測定を行うにあたっては、1つないし2つのパラメーターに対して、どのパラメーターを測定するか、という”主観的選択”が必要になります。他のすべてのパラメーターは、固定しておく必要があります。たとえば、特定の入力電圧というパラメーターに対して、周波数毎のスピーカーの音圧レベルをプロットすると、典型的な周波数振幅特性(f特性)になります。 しかし、この特性は、“無響室で・選択された角度(音響軸に対して0度(=軸上)とか30度とか)で・選択された距離で・選択された音圧で”の特性になります(多くの場合、1W入力時の1mでの特性もしくは2.83V入力時の1mでの特性が用いられますが、果たしてどれほどのオーディオ機材がその条件で運用されているでしょう?Avalonは開発者インタビューでこの定格に意味はなく、より大音量でチェックしていると述べています)。この特性が、実際の部屋で音楽を様々な音量や距離・ポジションで聴く場合にどれだけ普遍性と相関性を持っているでしょうか?したがって、”客観的”測定を行うにあたってはその測定条件や環境において”主観的選択”が含まれることを念頭に置いておくことが重要です(個々人が音楽を聴いた際に、「いい音と思う」「好ましく思う」「感動する」など多次元的かつ主観的感情を直接的に評価できる単一の特性は現時点では分かっておらず、音響の現象を示す一側面を投射する”影絵”のような特性評価が複数あるのが現状です。しかしながら、単一の特性で評価できないことでその特性を否定することはナンセンスだと思われます。必要なのは、その測定の主観的選択背景を理解し、複数の背景と自己の趣味趣向との相関性を正確に把握することなのです)。

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(各種の測定は実態の影絵でしかなく、またそれをどう認識するかは個人による)


Stereophile.comで公開されているスピーカーのレビューに関して、通常行われる測定は以下の通りです。

・音響軸上での能率(電圧感度)
・インピーダンス特性(抵抗値と位相)
・インパルスレスポンス、ステップレスポンス
・音響軸上での中高域周波数特性と位相特性(ファーフィールド)
・近接距離での低域周波数特性(ニアフィールド)
・軸外指向特性(水平・鉛直面ポーラーパターン)
・サウンドパワーおよび室内での応答特性
・各種の歪み特性
・群遅延および共振特性
・エンクロージャーの振動特性

このリストのどの特性も、前述の主観的特性を直接的に相関するものではないことは明らかです。例えば、あるスピーカーの「明瞭度と透明度(分解能)」を測定したいと思っても、この”主観的”特性である明瞭度・透明度・分解能を直接的に表す”客観的”特性を示す1次元(あるいは2,3次元の)グラフというものは存在しないのです。1つのスピーカーの客観的特性はすべて、多数の主観的特性と関連しているのです。

もちろん、聴感上の低音域の伸びと測定された低域特性など、強く相関性をもつ特性もいくつかありますが、スピーカーの1つの客観的特性が、複数の主観的特性に相関性をもつことに留意することが重要です。1つの特性値(例えば周波数特性、インピーダンス、または指向特性など)が実際の音を完全に -それどころか部分的にさえ- 示していると想定してはいけません。リスナーが音のイメージとして把握するには、全ての測定特性を同時に考慮する必要があります。「音」は、絶対に1つの測定結果だけでは語れないのです。

そして、わずかな可能性ですが、測定結果が間違っている場合もあります。測定機材を手に入れて、電源を入れて、機材を測定すれば、その結果のグラフは有意義なものと考えがちです。 a)グラフが正しく描出されている、またはb)想定通りに実際に測定できた、と単純に思い込むことは危険です。例えばエクセル計算の前に電卓で大体の計算結果を想定するように、もっと他のデータの準備が必要です。たとえば、スピーカーの複雑なインピーダンスを測定する前に、スピーカー端子の信号波形をオシロスコープで見て、さらに実際の音を聴くことが役立ちます。スピーカーから音が出てなくても、テストでは良好なグラフが描出される可能性だってあります。

3章からなる本文の次のパートでは、標準的な測定の仕方と、それらの解釈の仕方について説明します。 測定された客観的特性が、実際の音の良し悪しとしての主観的特性とどのように相関するのか、特にその相関性が強いものには特別注意するように説明するつもりです。


# by tetsu_mod | 2019-08-10 15:12 | オーディオ | Comments(0)

Measuring Loudspeakers, Part One
John Atkinson | Nov 7, 1998
https://www.stereophile.com/features/99/index.html

紹介するのはStereophile誌の前編集長、John Atkinson氏の1998年のスピーカーの特性評価における総説です。すでに21年前の総説ですが、非常にまとまっており、またこの内容に対する理解は非常に得難いものなので、僭越ながら注釈を追加しつつ、何回かに分けて和訳したいと思います。素人の和訳ですので、正確な文章が読みたい方は、ぜひ原文に目を通してみてください。

この一連の記事は、最初は(わずかに異なる内容で)1997年9月にニューヨークで開催された第103回Audio Engineering Society Convention(AES学会)で発表された論文として書かれました。 同内容はAESホームページから年会費を払って加入することで購読することができます。

オーナーは音楽を聴くだけなのに、わざわざオーディオコンポーネントの特性を測定する意味はなんでしょうか? 英語で出版されているオーディオ雑誌のうち、厳密なスピーカー測定を定期的に発行している雑誌は3つだけです(1998年当時)、すなわちイギリスの『Hi-Fi News & Record Review』、アメリカの『Audio and Stereophile』、そして『Stereophile』です(2019年現在日本には1刊もなく、Stereo Sound No.155, 156(2005)の企画で測定データが出されたのが近年では最後ではないでしょうか)。この事実から、スピーカーの測定データを、レビュアーの主観的な印象の参考とすることは、近年では時代遅れとなっているようです。しかしながら、スピーカーの特性を測定することなく、”Golden Ears”をもつレビュアーがミスを犯してしまうことを避けるにはどうしたらいいでしょう?私 - John Atkinson氏 - は、オーディオコンポーネントのパフォーマンスを完全に説明することは、オーディオ雑誌の責任だと思います。 そして、それは測定なしにはできません。

DACやアンプといったエレクトリックコンポーネントについては、入力信号に対するその機材による色付けを測定するのは簡単です(しかし、その測定結果を音質と結びつけて評論するのは気の弱い人には難しいでしょうが…)。しかし、何十年もの間、スピーカーの特性を測定する手段は、広く・高価な無響室でサイン波スイープを測定することしかできませんでした。それが、比較的最近(1990年代になって)、PCを使うことで普通の部屋でローコストに測定を行う手段(擬似無響室測定+近接測定の合成)が出現し、多くの人がスピーカーの特性を測定することができるようになりました。とはいえ、やはりまだマイクをスピーカーの前に設置し、検査者がPCの前に座ってEnterキーを押すだけでは、実際の音質に近い測定を行うのは不可能です。

オーディオマニアやオーディオ雑誌のレビューで、スピーカーの性能を表すのによく使われる用語は以下の通りです。

・音楽的、および音響工学的な正確性: 生演奏を体験するリスナーを納得させるように、全体の音をどれだけより近似に再現できますか?

・周波数レンジ(f特性): 低音および高音の伸び。超低域・超高域まで完全にカバーしていますか?また、スピーカー設計者は中域の明確さや耐入力のために超低域を切り捨てていませんか?

・周波数バランス: 自然なバランスか?不自然な音色になっていませんか?ある人の声を録音して再生した場合に、ちゃんとその人の声に聞こえるのか、あるいは風呂場で聞くように聞こえたり、コウモリの金切り声のようになったりしていませんか?最低域や最高域が持ち上がったりしていませんか?特定の帯域でピークを持っていませんか??

・応答性およびバランスの異常: 音色の色付け。人の声がメガホンで話しているように聞こえたり、鼻をつまんでいるように聞こえたりしますか?女性ボーカルの子音が過度であったり、男性ボーカルが過度に重々しく聞こえたりしますか?類似した異なる楽器の音がちゃんと聞き分けられますか?バイオリンがビオラに聞こえたり、オーボエがイングリッシュホルンに聞こえたり、フェンダー・ストラトキャスターがギブソン・レスポールに聞こえたりしていませんか?古くなったエンクロージャーでは、本当に録音された楽器の音とともに木琴の音が鳴っているように聴こえることもあります。

・明瞭度と透明度: どれだけディティールを聴き取ることができますか? 80年代初頭に、無響室で多数の鍵束の音をライブ録音・再生し、2つのスピーカーをブラインドテストしたことがあります。1つのスピーカーでは、まるで鍵が1本だけのように聞こえました。もう一方のスピーカーでは、何本の鍵があるかほとんど聞き分けることができました。つまり、音場内の個々の音像はちゃんと分離して、もしくは音の海からはっきりと浮かび上がって聴こえますか?

・粒立ち、硬質感、歪み: 大音量でスピーカーの再生音は歪んでいませんか?リスナーが部屋から逃げ出したくなるような音ではないですか?リスナーが鼓膜をサンドペーパーで擦られているような不快感は感じていませんか?

・正確な音場: 両チャンネルからモノラル録音を再生した場合に、引き締まった音像が左右のスピーカーの中央に正確に定位しますか?それとも、もやもやとした塊として聴こえますか?また、特定の周波数では中央に定位しても、他の周波数では定位が崩れることはありませんか?

・音場の広がりと奥行き: 優秀録音盤では、スピーカーとリスナーの位置による2次元音場において、各楽器の正確な配置を聴き分けることができます。

・ダイナミックレンジ(マイクロおよびマクロ): フォルティッシモなパートでは、ピアニッシモなパートと比較して適切な大音量レンジが確保されていますか(マクロダイナミックレンジ)?また、フォルティッシモなパートの中でも小音量で奏でられる各楽器の微細な変化を大音量に埋もれることなく聴き取ることができますか(マイクロダイナミックレンジ)?大音量での再生で、ただ全てが歪んでしまっていませんか、それとも音楽を「生き生き」と再生するための大音量再生になっていますか?

・ペース、あるいはリズム: Stereophile.comの貢献者であり、英国の評論家であるMartin Colloms によって最初に定義されました。録音の再生時間や音楽のテンポにスピーカーが影響するわけはないはずなのですが、スピーカーの一部には、音楽を明らかにゆっくりと聞こえるように鳴らすものもあれば、明らかに速く聞こえるようにするものもあります。


# by tetsu_mod | 2019-08-09 03:10 | オーディオ | Comments(1)

JBL C38 "Baron"

ALTECユーザーのNさんがサブシステムんJBL C38 "Baron"を入手されたので伺わせていただきました。

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030仕様:D130, 075, N2400(いずれもほぼNOS)
エンクロージャー:国産新品、初期Baronの寸法・ポート、突き板はウェンジ(鉄刀木)
クロス:N2400でacoustic slopeはD130: 2.7kHz Butterworth 4th、075: 3.0kHz Butterworth 4th

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Linkwitz-Rileyクロスがない時代にはButterworthでクロス周波数が持ち上がるのを避けるため、
クロスを少しずらしてトータルフラットにする手法がありましたが、非常に忠実に作られているかと。

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周波数特性は軸上で80〜14kHz程度でしょうか。

ちゃんと調整すればなんとなくreverse nullが見えました。

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しかし、ビンテージJBLの常でユニットとネットワークの正負表示がバラバラでした。
最終的に、全部のユニットのインパルスをみることで揃える必要性がありました。

全てをちゃんと調整すると、非常にまとまりのある、つながりのいいシステムです。
恥ずかしながら、JBL純正ネットワークの設計がこんなに作り込まれているものとは思いませんでした。

James Bullough Lansing 氏の設計スピーカーを2set、どちらも新品と見紛うばかりの美品を同時に聴き、
あまつさえ測定させてもらえる機会をいただきありがとうございました。
どちらもまとまりのある、柔らかな表現でJAZZもクラシックも選ばない表現力を持っていました。
Nさん、ありがとうございました。またどうぞよろしくお願いします。

# by tetsu_mod | 2019-06-30 00:34 | オーディオ | Comments(0)