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一般的な家庭での音楽鑑賞におけるルームアコースティクス(室内音響)

コンサートホールなどの商業施設に比較して、コストも低くオーナーの趣味嗜好が激しいオーディオ趣味の音響学は比較的遅れています。そのため、コンサートホールの音響学をそのまま一般家庭に当てはめることは困難になります。
小さい部屋では、大きいホールに比べて
 1. 最初の反射音が早くリスナーに届く。
 2. 低周波のモード密度が小さく、低音域に大きな影響を与える。

この2点から、一般家庭のオーディオにおいては低域と中高域の対応を分けて、部屋・システム・好みに応じた調整をする必要がでてきます。

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この差異は、コンサートホール・商業スペース・一般家庭・車内で空間容積が大幅に変わることと、人間の可聴域が可視域に比べて大幅に広いことによるものです。(Sound Reproduction / FLOYD E. TOOLEより引用)

『色付けのなく・明確な定位と音場の広がりをもち・包まれる余韻を伴う』再生を目標とした場合、映画館(Dolby Cinemaなど)では全吸音=デッドな空間とマルチチャンネルスピーカーでこれを到達します。ステレオ再生では、たった2本のスピーカーでこれを達成するためには、スピーカーからの直接音に加えて、部屋からの反射音(初期反射音・残響音)とのバランスが必要なります。すなわち、良いスピーカーだけでなく、良いルームアコースティクスが必要になるのです。

ルームアコースティクスの手段としては拡散・吸音・反射(・防音)があり、これらを組み合わせていくにいはいくつかのルールを知る必要があります。


オーディオの空間表現は以下の3つに分解されます。
 1. 定位
 2. みかけの広がり=Apparent source width(ASW)
 3. 包まれる感じ= Listener envelopment(LEV)
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このような空間情報は、聴覚の時間領域情報により知覚されることがわかっています。
人間の聴覚は基本的には周波数領域(周波数・音圧分布)によって音声を含めた情報を知覚しますが、msec(ミリ秒)単位での音の遅れは時間領域情報として知覚されることで、スピーカーからの直接音(初期到達音)・部屋の初期反射音・残響音と合成され空間表現として意識上層に認知されます。

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この時間領域情報による空間表現の知覚においては、
初期到達音に支配される『定位・音色』は軸上周波数特性/Listening Windowに主に支配され、
初期反射音に支配される『みかけの広がり』はEarly Reflectionと一次反射面に主に支配され、
残響音に支配される『包まれる感じ』はSound Powerと部屋残響特性に支配されることになります。

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軸上周波数特性:on axisでの周波数特性
Listening Window:水平±10度、20度、30度、垂直±10度の周波数特性平均値
Early Reflection:スピーカー前方に放射される水平・垂直全ての周波数特性平均値
Sound Power:スピーカーから全方向に放射される周波数特性平均値
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すなわち、より良い空間表現を求めてルームアコースティクスを改善しようと思った場合には、どの特性をどのように改善したいかを切り分けて考える必要がありますし、さらにここには小さい部屋での問題点としてのモード密度が深く関わってきます。

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小さい部屋では定常波(オーディオでは定在波という言い方のほうがメジャーかもしれませんが)の問題が大きくなるのはよく言われていますが、これは物質の固有振動の問題でありどのようなサイズ・素材であれ必ず発生するものです。その影響は低い周波数ほど大きくなりますが、この周波数は部屋容量により上下するため(大きい太鼓では低い音が出るのと同じです)、定常波モードに支配される低域と中高域の境界となる周波数(遷移周波数, fL)は部屋サイズによって異なります。
※実際には遷移周波数はかなり曖昧であり、スイッチのように特定の周波数で切り替わるわけではなく、グラデーションを持った遷移と言わざるを得ません。遷移周波数の算出式はありますが、実際にはその2〜3倍程度の周波数までモードの影響があるものと対応する必要がある場合もあり、実測に基づいた対応が望ましいことは言うまでもありません。

これらのことから、商業施設サイズの空間容積では遷移周波数は可聴帯域の下限に近づくため幾何音響学的な対応で事足りる一方で、一般的な家庭サイズの空間では -たとえそれが20畳であろうと- 低域と中高域に分けた対策を行う必要が出てきます。

(続)


by tetsu_mod | 2021-07-02 17:11 | オーディオ